2009年4月17日金曜日

米国IC3やFinCEN等によるインターネット犯罪や不動産担保ローン詐欺の最新動向報告



 わが国を含め、コンピュータ犯罪の情報収集の中心的機能を担っている米国インターネット犯罪苦情センター(Internet Crime Complaint Center:IC3(筆者注1)が、米国における2008年版調査結果”2008 Internet Crime Report”を発表した。

 IC3が公表した最新コンピュータ犯罪報告の2007年版については、KDDI総研の藤崎太郎氏が詳細に報告しており(筆者注2)、2008年報告も共通的な項目分析が行われていることから、本ブログでは2008年版における特徴点を中心に述べることとする。

 また、本ブログでも過去に紹介してきた米国のマネーローンダリングの取締機関である連邦財務省金融犯罪法執行ネットワーク(Financial Crime Enforcement Network:FinCEN)は金融機関に対する不動産担保ローン詐欺(Mortgage Fraud Report)に関する第4次報告を行っている。
 Mortgage Fraudについて、サブプライムローンの損失や差押(foreclosure)拡大と時期を会わせ2006年からFinCENによる報告が行われており、第4次ということからその傾向を追いながら解説を試みる。

 いずれにしても「振り込め詐欺」やマネーローンダリングの例に見るとおり、筆者が従来から追い求めている「進化し続ける詐欺社会」から庶民を守るには、あらゆるメディアを活用した「迅速な警告体制」と被害予防のための情報提供であろう。その意味で、法執行機関である警察庁サイバー犯罪対策プロジェクトの最新予防策のための“Cyber Warning” による最新の警告が、2006年7月ということはサイバー犯罪の範囲をIT技術を駆使した犯罪面だけに狭く解しすぎているのではないか。(筆者注3)

 一方、米国では、例えば前記「 2008 Internet Crime Report」付属資料2(Appendix-2)において犯罪阻止のための犯罪類型別留意事項と具体的な相談・苦情届出先(Best Practice to Prevent Internet Crime)をまとめている。きわめて簡単な内容ながら一般消費者向けの効果的な情報提供例といえる。(筆者注4)

実際、連邦司法省やFBIサイトを見ていると1週間に1~2回は詐欺裁判の有罪判決のリリースが出てくる。こんなに詐欺が多いのかと感心しているわけにはいかない。改めて本ブログでも詐欺特集が必要になるであろう。

 他方、先般本ブログで紹介したオーストラリアのSCAMwatchも詐欺の範疇を広くとらえたうえで詐欺手口の解説を行っており、消費者にとっては極めて有益と考える。

 さらに、わが国では一般的に知られていないが、2002年に国土安全保障省(DHS)の一部門(筆者注5)となったU.S.シークレット・サービス(United States Secret Service:USSS)(筆者注6)は優先的重要任務として、金融システム基盤と決済システムの保護を上げ、そのためコンピュータ犯罪やインターネット詐欺等に対する捜査、逮捕や予防対策への責任を担っており、他に機関では見られない独自の専門家による捜査機能・活動について今回のブログで概要を紹介する。


1.IC3「 2008 年Internet Crime Report」の特徴点
(1)犯罪類型別苦情件数・被害額割合・1件あたり被害額(中央値)
①商品未送や代金未払い詐欺(Non-delivered merchandise and /or payment):苦情件数は全体の31.9%と最も多く、被害額の割合で見ると28.6%、1件あたり被害額は800ドル(約7,800円)である。
②オークション詐欺(Auction fraud):苦情件数割合は25.5%、被害額の割合は16.3%、1件あたり被害額は610ドル(約6万円)である。
③クレジット・デビットカード詐欺:同9.0%、同4.7%、同223ドル(約22,000円)である。
④その他信用詐欺(Confidence fraud:相手を信用させて財産的被害をもたらすもの、前記①、②やナイジェリアン手紙詐欺もこの類型に属す)、コンピュータ詐欺、小切手詐欺(check fraud:小切手の偽造・変造や残高不足を知りながら振り出すもの)、ナイジェリアン手紙詐欺が件数割合として上位7類型となった。(筆者注7)

(2)被害額の多いもので見ると、小切手詐欺(3,000ドル)、信用詐欺(2,000ドル)、ナイジェリアン手紙詐欺(1,650ドル)である。

(3)加害者(perpetrators)の居住地域的特徴で見ると、比較的人口が多い次の州が多く、2007年の調査結果と同様の傾向を示している。()内は2007年の順位。
①カリフォルニア(1)
②ニューヨーク(3)
③フロリダ(2)
④テキサス(4)
⑤ワシントンD.C.(上位10位に」はいっていない)
 なお、米国以外の国でみると英国、ナイジェリア、カナダ、中国、南アフリカが多い。

(4)詐欺による被害者への接触ルートは、Eメール(74.0%)、ウェブサイト(28.0%)が上位2つを占める。

2.米国FinCENの「不動産担保ローン詐欺(Mortgage Fraud Report)に関する第4次報告」
(1)過去4回のFinCENによる不動産担保ローンに関する詐欺報告の公表年月は、次のとおりである。
・第1次2006年11月:FinCEN Mortgage Loan Fraud Assessnent
・第2次2008年4月:Mortgage Loan Fraud:An Update of Trends based Upon an Analysis of Suspicious Activity Reports
・第3次2009年2月:Filing Trends in Mortgage Loan Fraud
・第4次2009年3月:Mortgage Loan Fraud Connection with Other Financial Crime

(2) 2009年3月Mortgage Loan Fraud Connection with Other Financial Crime調査報告の概要
A.そもそも“Mortgage Loan Fraud”とはいかなる手口の詐欺であろうか。筆者はFBIやFinCENの2006年以降の不動産担保ローン詐欺(Mortgage Fraud)年次報告等を参考に調べてみた。2つのカテゴリーがある。 すなわち、(1)詐欺的行為による不動産資産や家の取得を目的とするもの(ローンの申込購入者(applicant)が、買った物件に実際に居住する場合が実住、実需案件(primary residence)であるが、applicant本人が不動産購入ローンについて収入や負債額等細かな点でごまかすものである。もともと返済するつもりで、たまたまごまかしを行うものである)、(2)第2のカテゴリーが法執行機関や不動産業界が最も懸念している詐欺行為である。すなわち、不動産査定評価とローン申込文書の全体としての不実記載詐欺は、関係者の違法な利益を生むだけでなく、申込者は頻繁に詐欺師に金銭の支払等を行うというリスクや経済的負担を負うことになる (筆者注8)
 この詐欺スキームの例示(違法な不動産転売スキーム:Illegal Property Flipping Scheme)がFBIサイトの図1で紹介されており、参考までに記しておく。(筆者注9)。(筆者注10)
①不動産転売業者(property flipper)は中古の家を2万ドルで購入する。
②property flipperは同物件を意図的に高くして8万ドルと査定する。
③property flipperは共犯の不動産の売り手兼ローンを仕組む役(straw buyer)に査定価格の80%の64,000ドルで売却(property flipperは64,000-20,000=44,000ドルの利益を得る)
④当該家は返済不能により一般的に差押(foreclosure)にあい、銀行には64,000ドルのローン債権が残るが、もともと2万ドルの家であり44,000ドルの損失である。さらに当該ローンが連邦住宅局の保証付住宅ローン(FHA-insured Loan:連邦住宅局の認可した金融機関のみで取り扱われる ローン。連邦住宅局は貸付額に対して抵当権設定者(債務者)から保険料を徴収し、債務不履行があった場合、抵当権者(金融機関)を保護する)であった場合は、FHAの損失負担となる。(2009年4月2日に司法省はカリフォルニア州ヘスペリアの不動産担保ローン会社“Mortgage One”の元社長(John Richard Varner 55歳)が連邦住宅都市開発省(United States Department of Housing and Urban Development:HUD)および民間銀行を騙して不動産融資を受けたとして、①HUD(実際はその1機関である連邦住宅局(Federal Housing Administration))を騙して不正な保証を受けた罪、②銀行詐欺および③偽の所得税申告(false tax returns)の計4訴因に基づき起訴され、同日連邦地方裁判所の有罪判決が下された旨公表している。最高41年の禁錮刑が科されるが、本件はHUD保証にかかわる第15番目の有罪判決例となる。)
 同詐欺の被害者は、融資者たる金融機関、不動産業界だけでなく、近隣住民も価格高騰による固定資産税の増加に悩まされるのである。

B.2008年財政年度における不動産担保ローン詐欺の傾向の要旨
 今回の報告は、不動産担保ローンに関する疑わしい取引(MLF subjects)に関する預金取扱金融機関の当局宛報告(Suspicious Activity Reports in Depository Institution:SARs-DIs)の検証と次の3つのタイプの詐欺報告をまとめた。(1)マネー・サービス・ビジネス(Money Services Businesses:わが国ではまだ定訳がない。FinCENの資料によると連邦規則集第31編第パート13サブパート103.11(uu) に定義されている )(筆者注11) とは、両替商や送金業、旅行小切手・為替・プリペイドカードの発行、販売、換金業務等がこれに該当する。米国では、個人経営のごく小規模な雑貨店、酒小売店でも為替サービスの取扱いがしばしばみられ、こうした個人事業者から大規模企業まで、多様な規模、業態の事業体がSAR-MSBsのカテゴリーを構成する。(2)証券ブローカー(securities Brokers)、証券ディーラー(securities dealers)または保険会社(insurance companies)(SAR-SFs)、(3)カジノまたはカードクラブ(card club:会員制クラブ)(SAR-Cs)である。
 2003年から2008年にわたる5年間の報告を分析した結果、次のような傾向が見られた。
(1)預金取扱機関から約156,000件の不動産担保ローンに関する疑わしい取引のSARs-DIsを確認したが、そのうち他のSARタイプの3,680件の報告が含まれていた。これはマネロンなどに関する通貨取引報告申告(currency transaction reporting requirements)を再検査した結果、不動産担保ローンに関する疑わしい取引に該当するものがSAR-MSBsでは85%、SAR-Cs では47%、SAR-SFsでは47%という数字になっていたからである。

(2)分析結果で SAR-MSBsは疑わしい取引の約70%が電子送金(wire transfer)によるものとして報告し、それらの申告の34%が米国外への送金として記述されていた。

(3) FinCENはSAR-SFsについて、異常に高い割合の疑わしい文書、詐欺的IDや偽IDの存在を確認した。

(4) SAR-Csの不動産担保ローンに係る疑わしい取引報告における小切手詐欺の割合は17%と、SAR-Csの同5年間平均が3%であったのと比べ異常に高かった。
 2009年度FinCENは、不動産担保ローンおよび他の金融詐欺の関係について追加分析を行い、報告された違法な活動、場所および主体者についてさらなる調査研究を行う。

3.米国U.S.シークレット・サービスの金融犯罪、コンピュータ犯罪捜査の概要
(1)シークレット・サービス(USSS)の捜査権および逮捕権の法的根拠
 合衆国法典第18編第2部第203章第3056条(U.S.Code: title 18 part Ⅱchapter 203 §3056)である。同法に基づく USSSの権限・機能の2本柱の1つが政府の要人警護であり(同条(a)項)、もう1つが全米的な金融基盤(financial infrastructure)と支払システムの維持と完全性(同条(b)項)の責任を負っている。特に金融機関や金融犯罪捜査を専門に担当する金融犯罪部(Financial Crimes Division)は、前述したとおりFBI、DOJやFinCEN等とともに重要な機能を担っているといえる。

(2)金融犯罪部のサイトの内容
 USSSは、1982年および1984年にクレジットカードやデビットカードなどアクセス・デバイスに関する捜査権と他のID犯罪に関しても他の捜査機関と並行した捜査権限が与えられ、また匿名性の高いインターネット利用の拡大とともにコンピュータ犯罪に関する詐欺の捜査権も与えられた。2001年10月26日、ブッシュ大統領が愛国者法(USA PATRIOT Act:H.R.3162)に署名し成立したことを受けて、USSSは全米規模の電子犯罪特別対策本部および作業グループ(Electronic Crime Task Forces and Working Groups)の設置が義務付けられ、当初8主要都市であったが、その後拡大し、2007年以降現在の24都市に特別対策本部が設置されている。
 USSSの金融犯罪部のサイトから金融犯罪に関していかに関与が拡大しているか、USSSの使命に関する主たる記載内容について解説する。なお、各詐欺類型の詳細は前述の藤崎論文を参照されたい。

①銀行等金融機関に対する詐欺(Bank Fraud)

②アクセス・デバイス詐欺(Access Device Fraud):金融業界の推定では、毎年クレジットカード等の詐欺被害額は数十億ドル(数千億円)に達する。USSSは合衆国法典18編1029条(アクセス・デバイスに関する詐欺および関連行為の取締法:一般的に「クレジットカード法」といわれている)に基づき連邦機関の中で優先的捜査権を有している。
 アクセス・デバイスとは、デビットカード、キャシュカード、コンピュータ用パスワード、個人識別番号、クレジットカードやデビットカードの口座番号、Long-Distance Access Code (LDAC)(筆者注12)、SIM(Subscriber Identity Module :GSMやW-CDMAなどの方式の携帯電話で使われている請求時などに電話番号を特定するための固有のID番号)である。USSSは1996財政年度のおいて同詐欺に関し2,467件の捜査を開始、一方2,963件の捜査を終了し、2,429人を逮捕した。

③コンピュータ詐欺(Computer Fraud): 無権限アクセス、なりすまし詐欺、DoS攻撃、電子商取引の強要(extortion)や途絶(disruption)、金銭的な利益を目的とする違法なソフトウェアの介在等の取締法である「コンピュー詐欺及び不正利用防止法(the Computer Fraud and Abuse Act(CFAA)18 U.S.C.§1030)」に基づき、USSSは特にインターネットの拡大による州や国境を越えたサイバー犯罪、コンピュータ詐欺の捜査体制強化のため米国中に電子犯罪専門捜査官プログラム(Electronic Crime Special Agent Program:ECSAP)を設立した。ここに任命された捜査官はコンピュータ関連捜査の専門家であり、コンピュータ、携帯情報端末(personal data assistants:PDA)、通信機器(telecommunications devices)、電子手帳(electronic organizers)、その他のメディアに関する多くの電子証拠の検査行動の適格者である。ECSAPは全米中に分布する重要基盤を守る利害関係者とともに横断的パートナーシップを構築する唯一のプログラムである。

④偽造詐欺(Forgery):毎年、数億枚の政府小切手や政府証券が発行される中、この莫大な枚数は、犯罪者をして被害者の住むアパートや自宅の郵便ボックスから小切手等の盗取やその偽造行為に導く。詐欺的取引において通常受取人の署名や偽の身分証明者を提示する。

⑤マネー・ローンダリング:米国法典第18編第1961条(不正な金儲け、ゆすりでいわゆる組織犯罪)の定義規定であるが、金融機関改革救済執行法(Financial Institutions Reform, Recovery, and Enforcement Act of 1989)第968条により金融機関詐欺もその対象となった) と同様、18編第1956条および同1957条に定める特定の犯罪行為である。

⑥電子政府栄養支援給付詐欺(Electrocic Benefits Transfer Fraud):従来のフードスタンプ制度は、政府が生活保護者等低所得の家族に発行する食品割引券、食料配給券で1977年配給法(the Food Stamp Act of 1977 (7 U.S.C. 2011 et seq.)に基づく生活支援プログラムであった。(筆者注13)2008年10月1日施行された補完的栄養プログラム(Supplemental Nutrition Assistance Program:SNAP)において一定の受給適格者は自宅にいながらにして適格性の確認オンラインでの登録、電子認証に基づく加盟小売店での一定の食料品の購入というプロセスが利用できる。しかし、そこになりすまし詐欺が入り込む危険性があったのである。SNAPサイトでは加盟店向けに電子援助(Electronic Benefits Transfer System(EBTS)に関し詐欺被害の警告を鳴らしている。

⑦費用前払い詐欺(Advance Fee Fraud:ナイジェリアン詐欺);
スパムメールで届くこの種のメールには絶対に返事をしないことである。一回返事をすると詐欺師はあなたをいじめたり威圧し始めるのである。最も効果的な手立てはすぐ当該メールを削除することである。仮に前払いにより高額な金銭的損失を被ったときはUSSSの専用デレクトリー(Field Office Directory)にメールを送ることである。

(筆者注1)わが国でIC3に該当する公的機関は、警察庁サイバー犯罪対策プロジェクトおよび都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口等のみであろうか。

(筆者注2)藤崎氏のレポートは、丁寧かつ原資料に忠実に解説されていると思う。ただし1か所気になったのは13頁のコンピュータ詐欺(Computer Fraud)の定義に関し「米国会計検査院」と引用されている。原語はGAO(U.S. Government Accountability Office)であるが、わが国では確かに「会計検査院」と訳されるのが一般的であり、筆者もかつてはそのように訳していた。しかし、連邦議会に対する権能や権限等について再度見直し、2007年9月の本ブログ以降は「連邦議会行政監査局」という訳語を使用している。

(筆者注3)IC3の報告書の要旨を読むと、コンピュータ犯罪にかかわりそうなあらゆる苦情をまず連邦、州、地方の関係機関が広く収集し、その中から関連重要犯罪を絞り込んでゆく分析過程が浮かび上がる。2008年1月1日から同年12月31日の間にIC3が受け付けた苦情275,284件(前年比33.1%増)の中には非詐欺にあたるスパムメールやチャイルド・ポルノ等も含まれている。

(筆者注4)わが国の関係省庁や機関がサイバー犯罪とくに「ボット(コンピュータを悪用することを目的に作られた悪性プログラムで、コンピュータに感染すると、インターネットを通じて悪意を持った攻撃者が、コンピュータを外部から遠隔操作する)」に対処するため共同運運営体制をとった例として、2006年12月1日に経済産業省と総務省が20010年3月31日までの期間限定で設置したサイバークリーンセンター運営委員会(CCC-SC)による「サイバークリーンセンター」があげられる。総務省や経済産業省を中心にISPの協力をえながらボット駆除や再感染防止の中心プロジェクトと担うとしている。ウェブサイトの説明も一般的に分かりやすく工夫の跡が伺える。
 しかし、一方でサイバー犯罪の範囲の拡大はとどまるところを知らない。海外の動向を見ても、米国がインターネットにかかわる苦情情報を情報源としながら、連邦捜査局(FBI)を中心として全米ホワイトカラー犯罪センター(NW3C)、主要民間企業、学術研究機関の協力のもとで極めて専門性の高い専門家集団を集めたサイバー犯罪捜査専門部門(全米サイバーフォレンジックス&教育連盟(National Cyber-Forensics & Training Alliance)や苦情収集に特化したIC3等)を構成して、最終的に連邦司法省や法執行機関を支援し、常に変化するサイバー犯罪の定義に苦慮しながらも可能な範囲でIT社会の脆弱性に取組んでいる姿を見ると、わが国のような限定型の取組みで十分なのか疑問に思える。

(筆者注5)2002年第107連邦議会を通過し成立した“Homeland Security Act of 2002”(Public Law 107-296)に基づき国土安全保障省(DHS)が設置され、同時にUSSSが財務省からDHSに移管された。このことはDHSの組織図やUSSSの歴史説明で明記されている。

(筆者注6)本ブログでしばしば紹介するとおり、米国の公的機関の法的根拠や重要任務に関するわが国の解説は、最新の法律情報等を確認していないものや不正確な内容のものが目につく。例えば、いまだにUSSSを「財務省検察局」(情報処理推進機構(IPA)の2004年8月「電力重要インフラ防護演習に関する調査 報告書」16ページ等)と訳している例が多く(わが国で一般的に利用されている翻訳サイト“Excite”や“ALC”も同様の訳語を使用している)、また「財務省秘密検察局」と言うものもある。昔のテレビの見すぎか。ビジネス用語だけでなく政治組織に関する訳語の正確性は重要であり、迅速に見直すべきであろう。
 “Secret Service”の基本的組織構成は3部門からなり、要人(大統領、副大統領、次期大統領、次期副大統領、これらの家族、元大統領およびその配偶者(再婚した場合を除く)、16歳までの大統領の子供、米国訪問中の外国政府の代表者や配偶者等である)の警備に当る特別捜査官(Special Agent:約3,500人)、対狙撃支援部(Countersniper Support Unit)、犬を使った爆発物探知部隊(Canine Explosives Detection Unit)、緊急対策部隊、金属探知支援部隊(Magnetometers)からなる制服部隊(Uniformed Division:約1,300人)、および法科学・法廷証拠(forensic)専門科学者、心理学者、法執行に関する教官、人事専門家、予算アナリスト、火器に関する教官、会計士、研究者、物理的セキュリティやコンピュータの専門家、グラフィックデザイナー、作家や弁護士を含む個人的支援高度専門家グループ(Support Personnel:約2,000人)からなる。
 なお、USSSは2008年から5年間の戦略計画“United States Secret Service Strategic Plan-FY2008-FY2013”を公表している。写真入りで分かりやすく説明されている。関係者や興味のある方は是非読まれたい。

(筆者注7)IC3の2007年報告にあって2008年版にないものに「投資詐欺(Investment Fraud)」がある(付属資料2の「詐欺にあわないための留意事項」では盛り込まれているが)。犯罪統計の連続性や被害規模からいっても無視し得ない重大犯罪であると考えるが、IC3に確認する時間的余裕がないので機会を改める。ただし、2009年3月31日にフロリダ連邦地方裁判所は投資詐欺(Ponzi aschemeの由来についてはWikipedia参照)の犯人であるマニュー・オガル(44歳)に対し禁錮10年に加え、損害賠償金12,744.349.50ドル(約12億4,900万円)および3年の監視付き釈放(supervised release)判決を下している。

(筆者注8)このような説明を読むにつけ、米国の不動産ビジネスの専門性や多様性が感じられる一方で、わが国の現状の不動産会社におまかせの不動産販売の仕組みそのものが、はたして購入者の保護や情報提供と言う点で十分なのか、融資を行う金融機関の立場からも別途考える必要があろう。

(筆者注9)不動産転売をめぐるこのような手口は、わが国でもごく一般的である。ただし、米国の場合がもう少し手が込んでいる。FBIの報告書を補完する意味で、対米不動産投資コンサルタントの中山道子氏のブログから買手が絡む不動産融資詐欺の手口の要旨を紹介する(筆者が一部加筆した)。「不動産の買主が、ローン・オフィサー(一般の商業銀行等で住宅ローンの相談、仲介などを行う専門家)やアプレイザー(appraiser:物件の査定業者)などと組んで、購入物件の査定額を吊り上げ、銀行から不当に高い融資額を引き出すのである。被害者は、一般投資家ではなく銀行である。ローン・オフィサーやインスペクター(inspector:物件の状態・修繕必要箇所などを鑑定する検査業者)(筆者注9)と並んで、不動産投資の際のパートナーとなるのがこのアプレイザーで、(1)市場価格(今、売りに出したら、最高いくら取れるか)、(2)再建築価格(今、この建物がだめになって土地だけになったら、いくらあれば、同じ間取りとパーツが再現できるか)、(3)収益還元法的価格(今、賃貸に出すとしたら家賃収入がいくらであるかを計算し、これくらいの資産価値がある、と判断する方法。州や地方によって方程式が違う)そうした詐害行為を働く買主は、大金をつかんだ後は、「ローンの支払いは放棄、物件も放置」というのが多数だそうである。」

(筆者注10) インスペクターの検査の対象箇所について、カリフォルニア州不動産インスペクター協会(California Real Estate Inspection Association:CREIA)が定める検査実施基準(CREIA Standard of Practice)を見ておく。①基礎、地下室、床下領域、②屋外部(ドア、窓、外壁等)、③屋根周り、④屋根裏部分(Attic Areas)や屋根の枠組み(Roof Framing)、⑤配管系統(Plumbing)、⑥電気工事部、⑦暖房や冷房機能、⑧暖炉や煙突、⑨内装である。詳しくはCREIAサイトで確認されたい。

(筆者注11) 税務大学校研究部 岡﨑正江氏「 米国内国歳入庁におけるマネー・ローンダリングへの取組」から引用したが「マネー・ローンダリング」関係者に対し、ここで連邦規則集(CFR)の定義(31 CFR 103.11(uu))を正確に説明しておく。これは、マネー・ローンダリングとインターネット賭博とは切っても切れない関係にあるからである。2008年1月6日の本ブログを読んで欲しい。
なお、「マネー・サービス・ビジネス」には、銀行および証券取引委員会(SEC)および商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission:CFTC)に登録、規制、監督を受ける業者は除かれる旨明記されている。
①通貨ディーラー(currency dealer)または両替商(exchanger):1日あたり1以上の取引において1,000ドル以上の金額の両替等を行わない場合は適用除外となる。
②小切手換金業(Check Casher): 1日あたり1以上の取引において1,000ドル以上の金額の換金を行わない場合は適用除外となる。
③トラベラーズチェック、国際為替(Money Order)およびプリペイド式通貨(プリペイドカード等)の発行者:1日あたり1以上の取引において1,000ドル以上の金額の小切手や送金を行わない場合は適用除外となる。
④トラベラーズチェック、国際為替(Money Order)およびプリペイド式通貨の売り手または買い手(redeemer):1日あたり1以上の取引において1,000ドル以上の金額のトラベラーズチェック等を扱わない場合は適用除外となる。
⑤為替業務取扱業者(money transmitter):金融機関、または連邦準備銀行や連邦準備制度理事会(双方を含む)の機関として、電子資金移動ネットワークを通じて通貨や通貨建て(funds denominated currency)の資金を免許に基づき、その受入れおよび送金を業として取扱うものをいう。

(筆者注12)“LDAC”とは、米国の大学の教授会メンバーや事務局員が、大学から承認を得た上で一般的に利用できる国内、国際の長距離電話利用サービスにアクセスする場合の個人識別コードである。各大学のサイトではそのコードを含め、利用申込方法や利用方法について説明いる。例えばアラスカ・アンカレッジ大学のサイトを見ると長距離電話サービスとして「アクセスコード方式」と「アクセスカード方式」の2方法を用意している。なお、筆者が疑問に思ったのはコード管理の厳格さについて警告を鳴らしている大学が見あたらなかった点である。

(筆者注13)米国の低所得者家族向け補助栄養支援制度に関してわが国では詳しく説明しているものは見たことがない。本プログラムは農務省の所管する食料・栄養サービスの一環として1977年配給法の基づく制度で、前述の通り従来は「食料配給券(Food Coupon)」といってまさに紙の券であった。2008年食料・保全・エネルギー法(Food, Conservation and Energy Act of 2008:H.R.2419)(わが国では「2008年農業法」と説明している例が多いのは同法の内容のミスリードを招く点からもこのような訳語は問題である。)により同プログラムの名称を「補完的栄養プログラム(Supplemental Nutrition Assistance Program:SNAP)」に改称した(2009年6月17日以降は紙のクーポンは無効になる)。では、なぜこれが電子詐欺と関係するのか。農務省のSNAPサイトに基づき手順に即して解説する。なお、わが国では電子政府サービスであるSNAPに該当する制度はない。あるとすれば自治体が窓口で行っている「生活保護制度」に基づく生活扶助額の中でまかなうしかないであろう。
(1)まず同援助プログラムの適格者かどうかFNSサイトでオンラインにより居住州、家族構成等個別に入力しながら確認する。
(2)利用のためのオンライン購入用に電子認証(Eauthentication)アカウントの開設手続を行う。(アクセスには2種類あり、限定されたセキュリティの「アクセス1」とインターネットを通じたより一般的な電子商取引が行える「アクセス2」がある)
(3)登録時に姓名や住所やパスワードの入力し、約15分後に本人のメールアドレス宛に新設アカウントの有効化手続の説明メールが届く。以降は通常のサイン・インを行う。


〔参照URL〕
http://www.nw3c.org/downloads/2008_IC3_Annual%20Report_3_27_09_small.pdf
http://www.fincen.gov/news_room/rp/files/mortgage_fraud.pdf

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